失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
ほんの少しの親戚の参列者の中に
初めて会う人がいた
それが母の従兄弟
あの従兄弟だった
母に似ていた
あの人の面影がほんの少しあった
若ければもっと似ていただろう
でもそれは僕にとっては
過去の残像のようだった
「久しぶり…」
母が従兄弟に話しかけた
まだ困惑したような顔で
従兄弟がうなずいて
後ろの僕に気づいたみたいだった
「彼が…?」
「そう…あの子の弟」
「大きくなったね」
「あなたの結婚式以来だったっけ」
「そうかもね…あの時はまだ2歳く
らいだった?」
「きっとあなたのこと覚えてないわ
よ…でしょ?」
母がいきなり僕に振った
「あ…うん…えっと…はじめまして
…じゃないんですよね…お久しぶり
です…なのかな」
見覚えのない再会に
少々僕はとまどった
従兄弟は母を諦め結婚してたらしい
その結婚式で幼い僕は会ってたのか
知ってるのかな…いろいろと
それとも母は何も言ってないのかな
でもそれももうどうでもよかった
兄の葬儀でこの人に会う
そのことがなにかひとつの
終焉の儀式みたいに思えた