失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「ごめん…いま説明する気力がない
気を付けるよ…」
「付き合ってんのか…」
ヤツは食い下がってきた
「ごめん…マジでキツイ」
「オレには話せないのか?」
「…違うよ…誰にも話す気力なんか
ない」
「それは…なんでだ?」
その時ふと気づいた
コイツに僕は現状を話しただろうか
兄が失踪したことを
覚えて…ない
マジか…?
自分の記憶が飛んでる
自分でも信じられなかった
一体僕は誰にこの状況を
話しているんだろう?
「…あの…さ」
「なんだよ」
「記憶が曖昧で…わからないんだけ
ど…お前に話してる?」
ヤツはイライラしていた
「なに?」
「兄貴が…失踪した…こと」
「え?…いま…なんて?」
「兄貴が…失踪したんだ…半年前」
僕はヤツに
何一つ話していなかった
ようだ