失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
その声は僕の頭の中に
直接響いていた
(君に邂ったすべての者の中に私が
いた…そうではなかったか?)
稲光のような言葉
全身を包む振動とエネルギー
僕はその姿に釘付けになっていた
僕はその顔に兄の顔を見た
そしてすぐに彼の顔になった
母の顔…父の顔…
あのプッシャーの顔…あの男の顔
神父の顔…店長の顔…
後輩の顔…先輩の顔…
兄の父親の顔…彼の父親の顔…
そしてヤツの顔になった
全部あなた…なのですね…
自分の人生という十字架の上で
それぞれに形の違う愛で
僕にこたえた
荊棘の冠の苦しみの中で
血を流しながら僕を愛して
(愛は君と共にある…よくわかった
だろう?)
「…聞こ…えた……」
僕は溢れてくる涙もそのまま
イエスの言葉をヤツに告げた
「彼の声…聞こえたよ…」
「なんて…言ってるんだ?」
「『僕が邂ったすべての者の中に…
私がいる』って」
ヤツは少し黙った
僕が見るとヤツも泣いていた