失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「愛されてたんだな…オレ…」
「ああ…そうだよ…ほんとにね」
「なあ…もう一度…歌わねーか?」
鼻をすすりながらヤツが言った
「…オレ達どうせ天使だしさ」
「駄天使…な」
「ああ…駄天使だ…ちくしょう」
教会を出て二人で歩道を歩いた
背中を丸めてポケットに手を入れる
ひんやりする夕暮れは
急速に暗くなってきていた
するとヤツが不意に立ち止まった
そして遠くを見ながら呟いた
「オレ達さ…ロンドンでデビューし
よーぜ」
ヤツは寝言みたいなことを
いつものように普通に言った
「それはまた大きく出たな…お前ら
しいけど」
「好きな人に逢いに行けよ」
一瞬の隙を突かれた
そう…来るかよ…
こいつ!
僕はその絶妙なタイミングに
真っ赤な目のまま笑っていた
「あっははは…お前って…参るな」
「だってよ…オレはお前のこと抱け
ねーし」
「ああ…それだけはカンベンな」
笑いながら僕は
駄天使の寝言について
少し本気になって考えることにした
「…悪くないかもな…その提案」
「だろ?…オレ様の言うことに間違
いはねぇぜ!」
空っぽの中に
入るだけ愛が詰め込まれていく
大丈夫
一切は愛なんだ
どんなに物語が失われようとも
それは失えやしない
《完》