失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「おま…え…どんな闇を背負ってる
んだ…?…こんな苦しんで…壊れか
けてんじゃねぇかよ!」
僕はハッとした
僕は何を口走った?
コイツは僕を心配して説得して
僕は自分のことばかりで
「ごめん…聞かなかったことにして
頼む…ごめん…僕が弱いから…弱い
から…いつも限界がすぐ来ちゃうん
だ…兄貴みたいに忍耐力がないから
だからこんな…おまえに心配させて
ごめん」
「違うんだよ…楽になって欲しいん
だよ…もうぼろぼろじゃねぇか」
もうダメだ
これ以上楽になる余地がない
僕は最後の気力を振り絞って
少しだけ正直に言った
「ごめん…あんな男でも…今の僕に
は救いなんだ…クスリ…弱いみたい
だから…パニックの薬と同じぐらい
だ…金は払ってない…好かれたんだ
彼氏じゃないけど…慰めてくれる
それにもうとっくにアル中なんだ…
ずっと前から…」
僕は黙ったヤツをおいて
そのままカフェをあとにした
そういえばヤツが先生を亡くした時
あんな風に僕もテーブルに
取り残されたな
大事な人を喪う苦しさを
ヤツはわかってるから
あんな風に…
ごめんな
僕のこと思ってくれてるのに
僕には応えるすべがないんだ
カフェの自動ドアを抜けて
駅に向かった
これからバイトだ
そのあと…あいつと
その時後ろから声がした
「待てよ…待って…」
ヤツが僕のあとを追って
こちらに走ってくるのが見えた