失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「お前…お前…あいつの…あいつの
復讐に…俺を落としに来たのか…?
…俺のせいじゃねぇ…あいつが自分
でしたんだよ」
「どうしたの!…意味わかんないよ
変だよ?…目が怖いよ…大丈夫?」
もしかして
クスリの禁断症状?
「クスリ…切れたの?」
僕は男の服をつかんで揺さぶった
男はハッとして
あわててそばに落ちている上着の
ポケットをあさった
そばに置いてあった
ミネラルウォーターのボトルを取り
なにかを飲み下した
そして膝を抱えて座り込み
ガタガタ震え出した
「お前は俺のもんだよなぁ?…おい
お前はなんで俺に抱かれてるんだよ
クスリが欲しいのかよ?…それが欲
しいだけなのかよ?」
僕は男の背中をさすりながら
いたたまれないような気持ちで
答えた
「抱いて欲しいんだ…あんたに抱い
て欲しいんだ…淋しくて死にそうな
んだ…わかってるんでしょ?」
男の意識がだんだん
モウロウとしてきたみたいだった
「もう…立たねぇぞ…」
そしてそのまま横になった
僕も男の隣に横たわり
身体を絡ませて毛布をかぶった
「これでいいよ…寝よう」
「ああ…寝…よう…」
僕たちはそこで朝まで眠った
朝目が覚めると
男はいなかった
僕は泣きながら部屋を出て
そのまま兄のアパートに戻った
明るい日曜日だった