失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
その男はいつも黙っていて
寒気を催すオーラを放っていた
年齢は知らないが
40代ぐらいだろうか
身体つきは格闘家のように
筋肉質で洗練されていて
走り込んでいた兄に似た
圧し殺した激情を隠すように
いつも無表情で僕を抱いた
僕を易々と拘束できる腕力が
僕の身体を思い通りに操った
その男に抱かれると
半日は使い物にならないほど
長い時間をかけて責め抜かれた
だからその男が帰って行くのを
僕はいつも知らない
気を失うように意識が無くなるから
僕の飼い主の男は
その中年の男に気を遣っていた
他の客とは明らかに違う扱いだった
その男はいつも決まった時間に
ホテルにやってくる
その男だけはスイートルームを使う
上等なアルマーニのスーツを
無造作に脱ぎ捨て
ベッドであのクスリのせいですでに
喘いで荒い息をついている裸の僕を
余計な無駄口の一言も言わず
無言のまま犯し始める
足で足を開かれされるがまま
あまりの激しさに辛くて叫ぶ口を
固い手のひらで塞がれて
僕は放出を繰り返し涙を流す
その涙が口を塞ぐ彼の指を濡らす
鷹のような一重の切れ長の目を
一瞬無防備に閉じる時に
男が僕の中にいったのがわかった
僕の飼い主が
ある夜クスリをくれなかった
飼い主は複雑な顔で
ホテルで僕に服を着せた
アルマーニの男が来て
僕は車で連れ出された