失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
二人でワインを2本空けた
久しぶりのアルコールで
少し酔ったが
今までの酒の量に比べたら
比較にならない
走れるか?
いや
走らなきゃならない
失敗したら
終わる
きっと半殺しに殴られて
監禁される
二度目は無い
そういうプロだから
だから
賭けだ
一か八かの…
僕は無気力な振りをしていた
男を出し抜くには
せめて少しでも油断させないと
「酔った…か?」
男が僕に聞く
僕はゆっくりうなずく
虚ろな目をして彼を見る
「抱かれていないお前はおとなしい
んだな…ベッドとはえらい違いだ」
「クスリが…効いてる…から」
僕は小さい声で答えた
「ヤクのせいだけか?」
男がフッと鼻で笑う
「違うよ…お前は」
首を軽く横に振って男は言う
「元々…狂ってる」
男は酒が入ったせいか
いつもと違い話している
だが酔っているわけではない
目付きが変わりない
「見た目は普通の…どこにでもいる
ただのカタギのガキなのにな…」
男はまた苦笑した
「一度抱くと止まらなくなる」
男はタバコに火を点けた
「逸材だ」
煙の中で男は目を細めた