失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
ここら辺は土地勘が無いが
住宅地は古く入りくんでいた
他人の家の庭でも
開いていれば家屋に入り込むことも
僕は考えていた
どうしようもなかったら
その家の電話で警察を呼んでもらう
僕がクスリをやってることがバレて
刑務所行き…だとしても
僕はそれを選ぶ
この男に飼われることを思えば
前科持ちになっても構わない
兄と再び逢えて
一緒に人生を過ごせるならば
エレベーターが降りてくる
チン!と軽い音を立て
B2のランプが点灯した
緊張で全身に鳥肌が立ってくる
エレベーターのドアが開いた
黒服が先に乗りドアを固定している
次に僕が男に押し込まれた
男が僕を奥の角に追い込む
黒服が操作パネルの前に立ち
クローズを押した
この位置からは黒服に遮られ
パネルの表示は見えない
ゆっくりと上昇のGがかかり
ついにエレベーターは
パーキングに向かって上がり始めた