失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
昇っていくエレベーターの中で
ドアの上の階の表示ランプが
B1を点灯した
頭に血が上るような圧迫感
手がワナワナ震えていた
そのとき
僕は一瞬デジャブのようなものを
感じていた
この感じ前にどこかで感じた…?
あのときだ
兄の父の病院に
初めて訪ねて行った
あのエレベーターの中で
あの時も常軌を逸していた
異常な緊張と命懸けの賭け
そしていまも…
僕は心の中で苦笑した
いまなんで思い出したんだろう
目標のパーキングは
そのランプの点灯しているB1だ
すぐに扉が開く
集中してたはずなのに
緊張し過ぎて意識が飛んだのか?
僕は再びドアの上に点灯した
階の表示を見上げた
だがランプは
その上の1Fを表示していた
パーキングを過ぎてる
僕の全身から血の気が引いた