失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「そんなに酔ってるのか…?」

男の声が遠くから聞こえる

二の腕をつかむ握力に

身体を吊るされていた



かすかな…チン…という音がした

開いたドアの外に引きずり出された

壁に10の文字

10階

最上階だろう

じゅうたんの上を抱えられて歩く



そして

あるドアの前にきた

黒服がそれを開けた



このドアの向こうから

再び帰ってこられるんだろうか?

「いや…イヤだ…離して…離して…

離して!」

僕はドアに手を掛け

足を踏ん張った

まるで

保健所に連れていかれる野良犬が

ゲージに押し込まれる時のように

だが男は僕を軽々と持ち上げた

ドアが外側から黒服に閉められた

「イヤだっ!」

暴れる僕を部屋の中に投げ入れ

男は容赦なく平手で殴った

それだけで僕は部屋の端に

勢いよく叩きつけられていた

口の中に血の味が広がり

視界が歪んで見えた

「お前の部屋だ…クスリが足りない

か…」

僕は叫んだ

だがもう遅かった





また

僕の予想は

現実に届かなかった





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