失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

鬼火




中から開かない部屋

繰り返す覚醒剤とMDMA

ヤク漬けの廃人

男の言いなり


調教…暴力…快楽…禁断症状…




携帯だけは…返し…て…

お願い…

兄貴が…連絡…し…




殴られるのはわかっていて

でも…土下座して頼む

すがりついて

靴で踏みにじられて

携帯…だけは…返して

白痴みたいに

会うたび会うたび

懇願して殴られて…



鼻血が口に溢れる

溢れた血がカーペットに滴る

僕を床に転がしたまま

左手に長い鎖のついた手錠をはめる

血まみれの僕を残して

男は部屋を出ていく






マンションは男の所属する暴力団の

関連の不動産会社が経営していた

あの黒服達は男の部下

あのクラブはヤクの取り引きの

商談のための場所

そして僕は

男の性欲を処理する便器であり

商談のためのいけにえでもあった

たまにいるゲイの取引先の接待

だからこのマンションなのだ

客はクラブから10階へ案内される

下の階には女の部屋もあるらしい

日本人も来るが

外国人も多かった

僕はプッシャーの飼い犬から

高級男娼になった

覚醒剤の注入された瞬間の

頭が飛んでしまうほどの

たまらない感覚の中で

知らない男によって繰り返される

何度も何度も行われる行為

そしてやってくる精神の転落

抱かれる前にしかクスリをくれない

パブロフの犬みたいに調教されて

だから客と男が来るのを待ち望んで

破滅の崖を転がり落ちて行く

そこには濃い死臭が漂っていた






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