失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



時間の感覚が

次第に曖昧になっていく

監禁はもうどれくらいなんだろうか

普段は長い鎖のついた手錠に

片手を繋がれて

ベッドとトイレを往復する

時計もカレンダーもない

窓から日が昇りやがて暗くなる

最初僕はそれをベッドの足下に

手錠の角で傷をつけて

日を数えていられたが

覚醒剤とエクスタシーに蝕まれて

記憶の混乱と幻覚が始まり

いつの間にかその傷はもう

増えることがなくなっていた




あの日携帯はその場で取られた

兄との連絡の可能性が絶たれ

僕は半狂乱になった

だが男にとってそんなことは

どうでもいいことだった

両親が僕の失踪を

知っているかどうかすら

わからなくなった

学校は…

ヤツは

僕の友達はもう気づいただろうか

僕がいないことに…

ヤツは元の飼い主を知ってる

だが関わってはダメだ

ヤツに何かあったら…

警察に通報してくれていれば

あの元の飼い主も逮捕される

だがその先までは言わないだろう

言ったら出所したあと殺される

男の組織に




兄の次は

僕が行方不明に…

父と母の心を思うと

凍りつきそうになった

だが見つかった行方不明の息子は

ヤク中でゲイの男娼だった

と二人が知ったら




僕はこのまま死んだ方が

いいのかも知れない

兄がもう帰ってこないなら

僕はもう死んだ方が

いい





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