失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
それでも今夜も
殺すはずの男に抱かれてる
絞め殺したいはずの男の首に
腕を回して
しがみついて
腰を回して喘いで
快楽の飛沫を垂れ流して
止まらない…
自分が憐れに思えてくるほど
止まらない
性感だけが研ぎ澄まされて
そのための機械みたいに
ただひたすら間断なく淫らに
注がれたものを全部受けとめて
悶絶して尽き果てるまで
最近男の様子がおかしいような
気がするのは僕の妄想なのかな…
抱きしめた僕を貫いたまま
じっと動かないでいたり
イク時に苦しそうな顔をしたり
全然入れないで身体中嬲り続けたり
客が少しずつ減ってる気がする
売買がうまくいってないのかな
それとも他のことでヤバい事態
だったりするのかな…
イラついていることもある
もっと冷徹で無表情だったのにね…
僕が携帯を返してって
言わなくなって警戒してるのかな
何も言わないのは変わらない
朝にはいない
僕はまだ
凶器を手に入れられない…
でも
デカい取り引きがそこまで来ていた
僕にも覆い被さるような
真っ黒い雲みたいに