失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「痛…い……よ…」
僕はうめいた
だんだんクスリが切れてきてる
「いつもより多く入れたんだがな」
「切れて…きた……いた…い…」
でももう少しも身体が動かない
「医者が来たらベッドに上げてやる
から」
男はなぜか優しい目をした
「…この状態で動かすともっと痛い
ぞ」
この男が鬼だったのに
あの狂ったサディストに比べたら
まだ人に近いように思える
「ま…た……売られ…るの…?」
「……」
なぜか男は答えなかった
医者がくるまでの間
男は僕の頭に枕を入れて
バスタオルを肩にかけてくれた
いつもの寒気を
男から感じ取れなかった
だがそれに戸惑う気力はなかった
しばらくして男の携帯が鳴り
男が医者を迎えに
部屋のドアを開けに行った
「ああ…ひどいな…これは」
医者は刺さった針の露出部分を
アルコールで消毒し
一本づつ一気に引き抜いた
「んっ…くうっ…!」
「ゆっくりやると痛いからね」
医者が止血の脱脂綿を取り出す
「尿道から血が出てるな…小便する
時にかなり痛いと思う…腫れて小便
が詰まることもあるからその時は管
を入れる…連絡してください」
医者は振り返って男に伝えた
中年くらいで痩せていて
変に落ち着きがなかった
きっとこの人もシャブ中なんだろう
そんな感じがした