ラッキービーンズ~ドン底から始まる恋~
そして私は。

どうして水嶋の言うことに逆らえないんだろう。


……手伝ってもらったんだからご飯を奢るくらい人として当然のことだよね。


自分にそう言い聞かせてフロアに戻って帰る支度をした。

エレベーターでロビーまで降りると先に来ていた水嶋が柱にもたれて立っていた。


「寒いから鍋でも食いたいな」

「鍋……」

「日向辛いの平気? ズンドゥブチゲとかどう?」

「……平気」


二人で鍋なんて寂しいって言ったのは水嶋じゃないの?

まぁ、お店で食べるのと家でやるのとは違うのかもしれないけど。

今さら鍋だなんて複雑な気分……。


水嶋が連れて行ってくれたのは小さいけれどお洒落で小奇麗な韓国料理店だった。

テーブル席には仕切りがついていてちょっとした個室気分だ。


ほかほかと湯気を立てる真っ赤な鍋を挟んで私達は向かい合った。
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