ラッキービーンズ~ドン底から始まる恋~
ドクン、ドクンと耳元で鼓動が鳴ってるよう。

だけど顔まで視線を上げなくても、ネクタイを緩めて少し着崩したスーツを見た瞬間、もう予感はあったと思う。


一度重ねただけだけれど、私はこの身体を知ってる。


顔を見れば当然、私がよく知っている水嶋と目が合って、瞬間、私はわずかに視線を逸らしてしまった。

逃げるように。


それは意識したものじゃなく反射神経的なもの。

だけどきっと水嶋は気を悪くしたと思う。


そう思うと心音はもっと乱れて、それなのに私の口からはよそよそしい嘘の挨拶がこぼれていた。


「日向です。……はじめまして」


不自然ではない程度の間があいて、「はじめまして」という他人行儀な挨拶が返ってきた。


自分からした行動のくせに、その冷たい言葉の響きに胸の奥がふるりと震えた。
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