ラッキービーンズ~ドン底から始まる恋~
あの夜のこと、なかったことにするから
突然現れた連れの男性の存在に、おじさん達は酔いから醒めたのか気まずそうに前を向いてコソコソと背中を丸めていた。

だけど私はおじさん達以上に気まずい思いを抱えているに違いない。


……なんでここにいるんだろう。

どうして2次会に行かなかったの?

もしかして私を追いかけてきた、とか?


……文句言うために?


そんな陰険な性格じゃなかったはず、と思い返してみても、自分のした仕打ちのひどさにそんなこと言える立場じゃなかったと思い直す。


訊きたいことはいっぱいあるのに、「はじめまして」なんて言った手前、普通に話しかけるのは気が引けて私はしばらく黙り込んでしまった。

彼も、何も言わない。


重苦しい空気を抱えたまま、タクシー待ちの列は少しずつ進んでいき、ついには酔っ払いのおじさん二人組も目の前から消えてしまった。


「あ、あの……」

「なに?」


だけど私達の前にタクシーが止まってドアを開けたから、このまま乗り込むわけにもいかず、私はおずおずと口を開いた。
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