手を繋ごう―瞳を開いて私を見て―【完】
「…何」



お袋からで、出るか迷ったけど、出る事にした。

最近、まともに顔を見た日はなかった。

いつも俺の自由を、我が儘を許してくれた人。



『萌が救急車で運ばれた』



「……」



――電話の相手が親父だった。

低い声は、俺への怒りを感じさせてる。

何も言わない俺に、親父は『萌に何した』と続ける。



「何の話だよ」



『…お前の赤ちゃん、死んだ。
流産したんだ』



「……」



…“流産”?

頭は真っ白になり、親父の怒鳴り声も耳を掠めない。

ただ、『市大病院に来い』と聞こえ、入江に何も告げる事なく、走り出していた。
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