手を繋ごう―瞳を開いて私を見て―【完】
仁志が、救急車を呼んだんだろうか。



「大切にしてやれよ。妬きそうになるほど、萌はお前に惚れ込んでる。健気で、か弱くて。ほっといたら拐われるかもな」



水が張られた灰皿に煙草を投げ入れた仁志は、「俺も負けてられねぇな」と、俺の肩にポンポンと触れて、帰ろうとする。



「仁志…」



「何だよ」



「…サンキューな」



仁志は振り返らず、左腕を軽く挙げて去って行く。

その後ろ姿は、俺が知ってるクールなヤツではなく。

優しさが滲み出てる。

何を頑張るのは謎だが。

ーーコンコンッ

煙草を消すと、スケルトンの壁が叩かれた。
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