恋する! マトリョーシカ


 ふと、視界の端に小さな赤が映り、気になってそこを凝視した。
 野犬の着ている体操着の右胸少し上部分に赤い染みが付いている。

 はな……ぢ?
 わたしの?


 ガバリ、と布団を捲って起き上がった。


「姉崎さん、鼻血っ!
 鼻血付いてます!」

 思わず、その部分を両手で掴み上げた。


「ちょ、騒ぐなって。
 胸倉掴むな。
 こんなもんぐらい別に……」

「脱いでください。
 洗濯して明日返します。
 早く脱いで!」

 瀬辺くんに汚いと言われた鼻血が、野犬の体操着に。
 目にしただけでもあんなに罵倒されたのに。
 それが着ているものに付着とか……

 有り得ない、有り得ない。
 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。


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