恋する! マトリョーシカ


「お願い。
 命だけは……」

 恐怖で震える声で切なる願いを口にすれば、男は視線だけを私へ落とし、

「何言ってんだよ。
 バカじゃねぇの?
 お前、体育館裏で倒れてたから。
 保健室に運んでんだよ。
 チッキショー、ついてねぇなぁ俺」

 苛立たしげにそう言った。


 ああなんだ。
 誤解してごめんなさい。


「もう歩けます。
 降ろしてください」

 意識が戻った以上、このまま抱っこされているのはなんだか気が引けた。
 重いし、私。


「ふうん、そっ」

 立ち止まると彼は、どうでも良さそうな返事をし、私をそっと冷たい廊下の上へ降ろしてくれた。

 口の悪さに相反して、優しい扱い。
 ちょっとだけ、胸の奥がキュッとなった。


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