恋する! マトリョーシカ


「この度は本当にお世話になりました。
 どなたかは存じませんが、このご恩は一生忘れません」

 丁寧に礼を述べ、深々と頭を下げた。

「お前……
 ふざけてんのか?」

 後頭部に落とされた、怒りに満ちた重低音に驚いて、勢い良く身を起こせば、彼は眉根を寄せた不満顔で私を見下ろしていた。


「え? 何がですか?」

 言った途端、再び眩暈が私を襲う。
 グラリと身体が傾き、慌てて廊下の窓に手をついてなんとか支えた。

「ちょ、ちょっとぉ~」

 彼も咄嗟に私のお腹に腕を回し、前に倒れそうな上体をガッシリと受け止めてくれた。


「おら、歩けるんだろ?
 さっさと歩け」

 腹立たしげに吐き捨てつつも、私の腰を優しく抱いて支えてくれる。


 
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