一期一会
これからどこへ行くのだろう。
そう思いながら幼子は不安な顔で見上げては母親を見つめている。それに気づいた母親がいつも見せる優しい笑顔を見せて話しかけた。
「どうしたの?」
「うん……、これからどこへ行くの?」
「みんながずっと仲良く一緒に暮らせるとこへ行くのよ」
「ほんと? ずっとお母さんと一緒に?」
「そうよ、ずっと一緒よ」
それを聞いて幼子は不安気にしていた顔をぱっと明るくして、満面の笑顔を浮かべた。
「やったお! ずっと一緒だお、嬉しいお!」
言って幼子が嬉しそうに母親に抱きつく。と、同時に幼子のお腹から長い、低くくぐもった空腹の音が聞こえた。
「おなかすいたお……」
「少し休憩しよっか」
「うん」
母親は近くにあった石の上に腰掛け、幼子はそのすぐ横にちょこんと座る。そうしてカバンから缶詰めを取り出して二、三枚のカンパンを幼子に手渡した。幼子がそれを受け取り、口に入れる。
「おいしい?」
「おいしいお」
本当は味などほとんど無く、口の中で粉になったカンパンが唾液を吸い取り、なかなか飲みこめない。母親はそれを察したのか、水筒を取り出し、水を飲ませた。