一期一会
 

「もう少ししたら街へ着くわ。そしたらお腹いっぱいご飯食べようね」

「うん! ぼく、お母さんの作ったご飯早く食べたいお」

「フフッ、楽しみにしててね」

 思えば工場に収容されて以来、幼子は母親の手料理を食べたことがなかった。そして母親も幼子のために好きな料理を作ることが出来なかった。

 しかし、これからはこの天使たちに手料理を作ることができる。服を着替えさせ、散歩をしたり、遊んだり、お喋りもできる。夜になれば一つの布団に一緒に転がって、子守唄を歌い聞かせることができる。幼子の寝顔を見ることができる。

 そういった平凡な一日を過ごし、我が子の成長を見守っていきたい。それが彼女の望む全ての願いだ。

 母親はポケットから飴玉を取り出し、幼子の口に入れた。

「はい、アーン」

「この飴玉、シュワシュワしておいしいお」

 言って幼子はにっこりと微笑み、しばしの間、口の中のシュワシュワを楽しみつつ、遠くの空を見つめていた。

 
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