一期一会
第一編 静寧の森
一 森林の乙女
大森林とも言うべきこの樹海に一つの集落がある。
一番鶏が辺りに朝を知らせた。まだ日は出てないが、かがり火が朝靄を照らし、辺りは清浄な空気に包まれている。
一人の女が目を覚ました。
眠い目を手でこすり、ゆっくりと起き上がると、両腕を上に投げ出して大きく背伸びをする。そうして枕元にあるランタンに火を灯し、しんと冷えきった部屋を暖めようと、暖炉に火をくべる。しばらく火に当たって身体を暖めると、毛皮のコートを羽織り、桶を手に持ち外へと出た。
二、三分ほど歩いていくとカラカラと滑車の音がする。どうやら先客がいたようだ。
「おはよう、おばあちゃん」
「はい、おはよう。今日も早いねえ、感心感心」
言いつつ老婆はロープを引っ張っていたが、なかなか桶が上がってこない。見かねた女がそれを手伝い、老婆の桶に水を移した。
「いつもすまないねぇ」
「ううん、ついでにおばあちゃんの家まで水を運ぶね」
「ありがとうよ」