君ニ恋シテル
* * *
「はっ!」
「どうしたの小沢ちゃん?いきなり大口開けて。焼き鳥まずかった?」
「違うわよ、焼き鳥は美味しいわ。それに大口なんて開けてないわよ」
「あはは、ごめーん」
「まったく渡辺さんったら、ほんと失礼しちゃうわ…せっかくの焼き鳥が台無しよ…あーほんとに美味しいわね……って、そうじゃなくて!」
「えー?」
「ゆうにゃんと徹平くんがいないのよ!」
「えっ?嘘っ!?」
きょろきょろと周りを見回す渡辺さん。
同時に他のみんなもようやくこの事態に気付いたらしい。
みんな今まで気付かなかったってどういうことよ。あり得ないわ。
まあ…私もたったさっき気付いたばかりだけど。
若干イライラしながら、焼き鳥を頬張る。
この焼き鳥が悪いのよ。
あまりに美味しすぎて、周りなんて見ていなかった。
「マジだ!いない!いつから?全然気付かなかったし!」
「二人で黙って抜け出したってわけか…」
テンション高く話す瀬川くんの横で、珍しく冷静な山本くん。
二人で…抜け出す…。
ふんっ、何よ。だから何だっていうのよ。
私にはまったく関係ないことよ。
………。
得体の知れない心のもやもやを振り払うかのように、私は焼き鳥の串を勢い良くゴミ箱に捨てた。
「二人でねぇ…」
徐々にいつものニヤニヤ顔、いたずらっ子のような表情に戻る山本くん。
…珍しく冷静なんて思った私が間違いだったわ。
やっぱり山本くんは山本くんね。
「逞、携帯鳴ってる」
「えっ?あっ、マジだ」
野田さんの声に、山本くんは携帯に目を向けた。
が、一向に電話に出ようとしない山本くん。
「出ないの?誰から?」
「徹平から」
「えっ!じゃあ早く出なよ!」
そうよ!早く出るべきよ!
野田さんに続き心の中で叫ぶ。
「ヤダね、出ない。いいじゃん、このまま二人にしておけば」
…っ!
このバカ者!
渡辺さんや瀬川くんに目を向けるも、どうでもいいのか二人とも焼きとうもろこしに夢中だ。
何よ…なんなのよみんなして!
そうこうしているうちに、電話は切れてしまった。
「ははっ」
楽しそうに笑う山本くん。
…何を笑っているのよ、このバカっ!
と、よっぽど声を大にして言ってやりたかったけど、言えずるはずもなく歯を食いしばる。
「よーし、次はあっち行こうぜー!」
山本くんがそう言うと、またみんなぞろぞろと歩き出した。
はぁー…。
もう、どうでもいいわよ。
どうだって…。