君ニ恋シテル
「前からね、仕事で上手くいかなかったり、落ち込んでる時、何も言ってないのにそれがわかるのか、今みたいにアイスを出してくれたり、冬だったらあったかいスープを出してくれたり…凄くさりげなく励ましてくれるの」

沙弓ちゃんはそう言うと、嬉しそうにアイスを食べ始めた。


そうなんだ…。
じゃあこれは沙弓ちゃんを励ますために…?

あ…もしかして、てっちゃんの言ってた優しいの意味の一つには、これがあるのかな?

前に言ってたよね、池田さん夫婦は優しいって。


さっきほんの一瞬だったけど、池田さんが微笑んだように見えた。

いつもあまり表情がないからわからないけど、優しい人なのかも…。

うん、きっとそうだ。
…やっと理解できた。


「優奈ちゃん…?早く食べないと溶けちゃうよ?」

「…あっ、うん。いただきまーす!」

いけない、池田さんに気をとられ過ぎて…せっかくのアイス、味わって食べなきゃね。

パクンと一口…。


「美味しいっ!」

静かな店内に、声が響く。


あっ…ヤバイ。
こんな大きな声で、子供じゃあるまいし…。
恥ずかしい…。

そんな私を見て沙弓ちゃんは一瞬目を丸くし、微笑えんだ。


「あはっ…」

私は照れながら、微笑み返す。


そして…

会計の時、いつもは出てこない旦那さんのコックさんも顔を出し、私達を見送ってくれた。

こういう所に、私はまた優しさを感じたのだった。


「今日はほんとありがとう」

沙弓ちゃんが笑顔で手を振り歩き出す。


オレンジの夕陽が、沙弓ちゃんの後ろ姿を照らしていた。

逞くんと早く元通りになればいいな。

今日、沙弓ちゃんと話せてよかった。
話してくれて、嬉しかった。

二人の色んなことが知れたし、沙弓ちゃんとも前より仲良くなれた気がした。
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