君ニ恋シテル
ーーー…
ーー…


「キレイだねー!」

「うん」

亜紀ちゃんが楽しそうに言う。


ほんとキレイ…。
手持ち花火がキラキラ輝く。


旅館の敷地内には海があった。
昼間行った海とはまた違った雰囲気。

『夏に恋して』のPV撮影で使われた場所も良かったけど、こっちもいいな。

なんか…落ち着く。



「きゃあー!徹平くん見てみてー!」

「逞くん、キレイだね」

ファンの子達の楽しそうな声があちこちで飛び交う。


「渡辺さん、線香花火で勝負しましょうよ。先に落ちたほうが負けよ」

「いいねー!やろやろー!」

途端に無言になる二人。
真剣な百合香ちゃんと亜紀ちゃんの姿。
なんだか微笑ましいなぁ…。


ザザーン…

耳を澄ますとクリアに聞こえる波の音。

少しひんやりする空気は、もうすぐ訪れる秋の気配がした。


「あ…」

手に持っていた花火が消え、手元が真っ暗になる。

終わっちゃった…。



「はい」

え……?

振り向くと、そこにはてっちゃんがいた。

トクンと胸が鳴る。


「あっ…ありがとう」

てっちゃんの手から差し出された花火を受け取り、私はお礼を言う。


どうしよう…なんか気まずい。
やっぱりさっきプレゼント渡すべきだったよね…。今更だけど、気まずすぎる…。


「一緒にやろう」

そう言って、花火に火をつけるてっちゃん。

パァッと柔らかな光が私達を照らし、さっきまで薄暗くてよく見えなかったてっちゃんの顔がはっきりと見えた。

視線が重なり、ドキッと胸が鳴る。


てっちゃんの笑顔が、あまりにも優しかったから。優しすぎるから…。

また…二人だけの世界にいるみたい。

花火の灯りがオレンジからピンクに移り変わる。


私、てっちゃんのこと…本当に大好き。
大好きすぎて…怖いよ。
気持ちを伝えるなんて…怖くてできない。


と、その時。

「ヤバイ!ヤバイ!」

ん?

亜紀ちゃんの慌てた声が聞こえ、私とてっちゃんはパッとそちらに視線を向けた。
< 530 / 679 >

この作品をシェア

pagetop