君ニ恋シテル

◇◇◇

なぜ私の隣にはこの人がいるのかしら?

大嫌いで大嫌いな…

「怖くない?」

緑川浩二…浩ちゃんだ。


『怖くない?』って怖いに決まってるじゃない。
わざわざ聞いてくるなんて、イヤな人ね。
私は浩ちゃんの言葉を無視した。


「はは、そうか言葉が出ないほど怖いか」

ほんとこの人…いちいちムカツク。


二人の足音が廊下に反響する。
静かね…他に何の音も聞こえない。
他のグループの人達の叫び声も聞こえないし…逆に不気味だわ。



すると…


…♪…♪


音楽室の前を通り過ぎた時だった。

これは…ピアノの音色?
キレイで…哀しい音。


「……っ」

ゾクッとした。
一瞬で体が凍りつく。


怖い…!


「あはは、音楽室のピアノってベタだなぁ…って、大丈夫か?」

「だ、だいじょ…」

ダメ…怖い。
手が震えて…。


…と、次の瞬間、あたたかなものが私の手を包み込んだ。

大きくて、安心感のある…浩ちゃんの手。


「…っ!!」

瞬間、思いっきり手を振り払った。
この人何を…!


「うわっ!なんだよ」

「なんだよってなんですか!?セクハラですよ!?」

「はぁ!?人がせっかく…手震わせてるから安心させようと…」

最低っ!最低っっ!最低よっ!!
気安く触らないで!

気付いたら私は浩ちゃんを無視して歩き出していた。


一体なんなのよ!昨日は頭を触られ、今度は手を握られたなんて!この人はいくら私の初めてを奪う気なの!冗談じゃないわ!

せっかくの初めてが浩ちゃんだなんて…最悪よ。


いつの間にか怖さなんて消えていた。
そんなことよりも…頬が熱くてどうにかなってしまいそうで…。


「おい君!待てって。そんな怒ることないだろ?」

慌てて私のもとへ駆け寄る浩ちゃん。

…隣に並ばないでほしいわ。
お願いだから近くに寄らないで。
< 542 / 679 >

この作品をシェア

pagetop