君ニ恋シテル
◇◇◇
なぜ私の隣にはこの人がいるのかしら?
大嫌いで大嫌いな…
「怖くない?」
緑川浩二…浩ちゃんだ。
『怖くない?』って怖いに決まってるじゃない。
わざわざ聞いてくるなんて、イヤな人ね。
私は浩ちゃんの言葉を無視した。
「はは、そうか言葉が出ないほど怖いか」
ほんとこの人…いちいちムカツク。
二人の足音が廊下に反響する。
静かね…他に何の音も聞こえない。
他のグループの人達の叫び声も聞こえないし…逆に不気味だわ。
すると…
…♪…♪
音楽室の前を通り過ぎた時だった。
これは…ピアノの音色?
キレイで…哀しい音。
「……っ」
ゾクッとした。
一瞬で体が凍りつく。
怖い…!
「あはは、音楽室のピアノってベタだなぁ…って、大丈夫か?」
「だ、だいじょ…」
ダメ…怖い。
手が震えて…。
…と、次の瞬間、あたたかなものが私の手を包み込んだ。
大きくて、安心感のある…浩ちゃんの手。
「…っ!!」
瞬間、思いっきり手を振り払った。
この人何を…!
「うわっ!なんだよ」
「なんだよってなんですか!?セクハラですよ!?」
「はぁ!?人がせっかく…手震わせてるから安心させようと…」
最低っ!最低っっ!最低よっ!!
気安く触らないで!
気付いたら私は浩ちゃんを無視して歩き出していた。
一体なんなのよ!昨日は頭を触られ、今度は手を握られたなんて!この人はいくら私の初めてを奪う気なの!冗談じゃないわ!
せっかくの初めてが浩ちゃんだなんて…最悪よ。
いつの間にか怖さなんて消えていた。
そんなことよりも…頬が熱くてどうにかなってしまいそうで…。
「おい君!待てって。そんな怒ることないだろ?」
慌てて私のもとへ駆け寄る浩ちゃん。
…隣に並ばないでほしいわ。
お願いだから近くに寄らないで。