君ニ恋シテル
そして、

「えぇーーー!?」

その人を指差し亜紀ちゃんは大きな声を上げた。

それとは対照的に、私と百合香ちゃんといったら、驚き過ぎて声も出ない。


そんな私達の様子に、よく知っているその人はいつものようにニコリと微笑んだ。ほんの少し、驚きの表情を浮かべながら。



「うっそ!なんで徹平がここにいるのー?」

そう、そこにいたのはてっちゃんだった。

ほんとになんで…?
凄い偶然…。


「今日はドラマの打ち上げで。二次会でここに来てたんだ」

「へー!そうだったんだあ!」

てっちゃんと亜紀ちゃんが話す様子を、一歩引いて見守る。


やっぱりなんとなく…気まずいから。
どんな顔しててっちゃんと話せばいいのかわからない。


「そうだったのね。ビックリしたわ。まさかここに徹平くんがいるなんて思わないもの」

「あはは。俺もビックリしたよ」

百合香ちゃんの言葉に笑顔で答えるてっちゃん。

いつもと何も変わらない。


私も何か話さなきゃ…だけど、言葉が出てこない。普通にしたいのに、できない…。 


「ドラマの打ち上げってことは…西村陽花も来てるの?」

亜紀ちゃんが質問すると、一瞬てっちゃんの表情が変わった気がした。

ズキンと胸が痛む。一瞬で鼓動が速くなるのがわかった。
亜紀ちゃん、なんでいちいちそんな質問を…!


てっちゃんが答えようとしたその時、

「あ!」

そう言って、亜紀ちゃんはいきなり私の手をぐいっと引き、曲がり角に隠れるように移動した。


「ちょっと亜紀ちゃん急に何…!」

「静かに…!西村陽花が来た!」

「えっ!?」

こっそり様子を窺うと、確かに西村陽花がこちらに向かい歩いて来る姿が見えた。


「徹平くーん。中々戻って来ないから心配で探しに来ちゃったぁ」

甘えた声。
苦しくて、胸がぎゅっとなる。


すらっとした手足、整った顏、白い肌。
透明感に吸い込まれそうになる。
いるだけで、その場の空気が一変してしまう存在感。

この人には適わない…。
そんなふうに思わせる西村陽花は、やっぱり本当に凄くて…泣きそう。


すると、

「この人は…?」

さっきの甘えた声とはガラッと変わって、低い声で西村陽花が呟いた。


この人って…?

あ!百合香ちゃん!
西村陽花の視線の先には百合香ちゃんの姿があった。


「やば…小沢ちゃん置いてけぼりにしちゃった」

焦ったように亜紀ちゃんも小さな声で呟く。
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