デスペリア
(一)
「もー、あなたまた、あの子にパンを多くオマケしたでしょ!」
「ごめんごめん。でも仕方がないんだ。あの子、『美味しいパンをいつもありがとう!』だなんて言ってくるんだもの。あの笑顔とセットになったら、ついオマケしたくなるんだ」
「だったら次からお金貰わずに、パンをあげてよね」
「はは、そうするよ」
彼らは小さなパン屋を営む夫妻であった。
仲むつまじきが似合う素朴ながらも、幸せな夫妻であり、夫にとっては自慢できる妻であった。
さすが僕が愛する人だと的外れなんだか、自慢なんだか分からないことを夫はいつも思う。