デスペリア


(二)


朝の仕込みを夫が一人でやっている時であった。


「ん?」


パン生地をこねる手を止め、タオルで拭く。


「騒がしいな……」


朝一たる時間に騒がしいとは異常にも感じられた。厨房に窓はないため、店を出た夫だったが。


「なんだよ、あれ……」


目を疑った。


信じられない光景とも言うべきか。


空に地に、黒い軍団が街に溢れかえっていたのだ。遠方から火の手があがり、もくもくと黒煙が上がっている。


「あ……、り、リタ、リタ!」


迫り来る魔物の軍団を見て、真っ先に出たのが妻の心配だった。


店に入り、寝室がある二階への階段を踏みしめて。


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