デスペリア


「きゃあ!」


「リタっ!」


妻の悲鳴で、夫は狂ったようにどたどたと階段を上がった。途中、けつまずいて転ぶも、すぐに立ち上がり、寝室に向かう。


「リタ!――っ」


扉を開けるなり目に入ったのは、妻と、妻の前で槍を持つ魔物の姿。


床には割れたガラス片が散らばり、コウモリのような魔物の羽にも微量ながら刺さっていた。


「やめろおぉぉ!」


夫がすかさず妻と魔物の間に入った。


妻を包むようにしながら、顔だけを魔物に向ける。


「やめっ、やめてくれ!妻だけは殺さないでくれ!」


声帯をいっぱいまで広げて懇願した。


< 107 / 119 >

この作品をシェア

pagetop