デスペリア


あなた、と弱々しく呼ぶ妻の声をさえぎり、どうか妻だけはと夫は言い続けた。


それが、魔物の目にはどう映ったか。


「白々しい人間どもめ……!」


歯噛みするような声と共に、魔物が槍をあげる。


「貴様らのせいで、隊長はっ!」


槍を下げようとした瞬間。


「頼む!妻と子供だけは助けてくれ!」


魔物にとって、反応せざる得ない言葉を聞いた。


「子供だと……」


「僕は殺してくれて構わないからっ、だからっ、妻とお腹の子だけは……!」


魔物の質問に答えたわけではない懇願だが、魔物の疑問は晴れた。


槍を人間に当てずにただ下ろす。


寄り添う人間たち、懇願する人、身をていして守ろうとする夫に、魔物が動揺をした。


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