デスペリア


「なぜ、なぜ……」


誰に問うたかは知らない。


魔物が持つ槍が小刻みに震えていた。


「貴様らは隊長を……、我らが尊敬する隊長を、なのに、我は……」


なぜという疑問は、魔物が己が自身に言った言葉だった。


――殺せない。


前にいるのは仇でしかないのに、槍を持つ手が鈍るのだ。


理解不能と否定したいが、魔物は理解し、否定したかった。


「人間に、情などと……!」


足を後退させ、首を振り続けた魔物だったが――出てしまった感情はしまえなかった。


「あり得ぬ、貴様らは隊長、隊長をっ、あり得ぬのに……!」


「お願いだ!何でもする!だから――」


聞いてしまった悲痛な懇願に、感情が揺るがされた。


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