夢の続きで逢えたら
通勤ラッシュ時間だったが、詩野は下りの電車に乗ったため、
ほぼ満席とはいえ、車内はそれほど混雑していなかった。
詩野が席の端に座る。
僕はそのちょうど対角線に位置するドアに寄り掛かり、
携帯をいじるフリをしながら観察を開始した。
一息ついた詩野は、
鞄の中から真新しいカバーに包まれた本を取り出し、読み始めた。
なんの本だろう。
漫画?小説?
それだけでも、詩野の好みが多少わかるのに、
僕の角度からでは、本の中身はもちろん、
カバーに印刷された書店名すら見えなかった。
二、三駅を過ぎたところで、
一人の杖をついた年寄りが乗ってきた。
それに気付くやいなや、
さっきまで携帯用のゲーム機に夢中だったはずの高校生が寝たフリをする。
優先席に座っていたOL風の女性は、ここぞとばかりに化粧直し。
そんな中、詩野だけがすぐに席を立ち、
その年寄りに席を譲った。
年寄りは一度は断ったものの、
詩野は笑顔で、
「私、次で降りるんで」
と言って、その年寄りが座るのを確認してから、
ゆっくりと隣りの車両へ移動した。
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