その手で溶かして
「家には誰もいないから気にしないで。」
「ご両親は?」
「まだ仕事。」
お父さんはお医者様だというのに共働きなんて……
お母さんが働きに出る理由が私にはわからない。
「真雪、俺寒いから中へ行こう。」
少し強引に引かれた手に力を入れて抵抗したけど、コートも羽織らない遠藤君の姿を見て、私は手の力を緩めた。
「お邪魔します。」
広すぎる玄関で靴を脱ぎ、誰もいないとはわかっていても中に向かって声をかけた。
「どうぞ。どうぞ。」
遠藤君の後ろを付いて歩きながら、広い室内をキョロキョロと見回す私。
失礼だとはわかっていても、視点が一つに定まらない。
「ソファーにでも座ってて。」
と指を指されたほうに言われるがままに足を進め、腰を下ろした。
なんだか落ち着かない。
私の視界から消えてしまった遠藤君を必死に探すけれど、物音すらしない部屋の中でキョロキョロしすぎるのは不自然だと思い、視線を足元へ移した。
もし、このタイミングでご両親が現れたらどうしよう。
立ち上がって
「お邪魔しています」
と頭を下げるべきか……
その前に
「初めまして」
と自己紹介するべきか。
頭の中が混乱しすぎてボーっとしてきた頃、何かを手にした遠藤君が現れた。