その手で溶かして

「どうして?突然、帰るなんて?」



「帰りたいと思ったから。」



「家から連絡があったの?」



「いいえ。」



ママからの連絡は一度も来ていない。



「それじゃ、何か嫌なことでもあった?」



「いいえ。」



“嫌なこと”があったわけではない。



ただ……



「じゃあ、どうして?理由を聞かせてもらえない?」



「この場所にいたくなかっただけよ。」



「この場所?」



遠藤君は私の言葉を、理解できずに首を傾けている。



「私がいる場所ではない。今日はいつもと違うことを経験したけれど、これ以上は結構だわ。」



「真雪……」



私は嫌なことでも言っているのだろうか?



遠藤君の顔から笑顔が消えた。



「私は私の居るべき場所に帰りたくなっただけ。」



「そうか……。暗くなってきたし、送るよ。」


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