その手で溶かして
遠藤君は言葉にはしないけれど、
“仕方ないから送ってやる”
と言われてるのと変わらない。
「1人で大丈夫よ。」
私は携帯電話を取出し、アドレス帳に登録してある番号に電話をかけた。
ママが登録しておきなさいと、口煩く言っていたタクシー会社の番号が初めて役に立つ。
「タクシーで帰るなら安心だな。」
私とこれ以上、一緒に居なくていいとわかった遠藤君の顔には安堵の笑みが浮かぶ。
「気を遣ってくれてありがとう。」
「礼を言われるまででもないよ。」
10分もしないうちにタクシーは到着し、私は現実の世界へと舞い戻った。
私には“当たり前”が心地よい。
冒険のような出来事は、今日で最後にしよう。
タクシーから見上げた、空には微かに輝く星がちらほら。
私の嫌いな寒さもあと少し。