その手で溶かして

表情が豊かだな。



私にはこんな風にはできない。



だから、今目の前でコロコロと表情を変えるナオが少し羨ましかったりする。



「ナオ、ごめんなさい。私には、ナオの感覚がわからないみたい。そんな、経験がないから……」



ナオはいつだって、真っ直ぐにぶつかってくる。



そして、真剣に私を理解しようと、自分を理解してもらおうとする。



だから、私もそれに答えたかったのだけれど……



無理みたいだ。



やっぱり、ナオとは違い過ぎる。



私には冷たいという感覚もわからなければ、他人に対して権利を主張できることも理解できない。



だって、所詮人は自分のことを一番に考えて行動する生き物。



それが、意識的か無意識かは別として。



それなのに、権利なんか主張したところで意味のないことだ。

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