その手で溶かして
「よっ。帰りか?」
話し掛けないでという雰囲気を体全体で表現していたはずなのに、ウミはいとも簡単に私の隣に並び、声をかけてくる。
「こんな時間にいるのは珍しいな。」
私が何時に帰宅しようとウミには関係ない。
「不貞腐れた顔してないで、会話をしてくれよ。勉強ばかりしすぎて口が効けなくなったのか?」
ウミの言葉に苛立った私は乱暴に言葉を返した。
「今日は家で勉強。」
「そっか。毎日勉強ばかりで飽きないか?」
「別に。」
「そうだよな。好きなことなら飽きないよな。どんなに辛くても、毎日が単調でも、好きなことなら苦にならない。」
突然、声質が変わったウミに驚き、私は思わずウミの顔を見てしまう。
そこには私の知らないウミがいた。
あの頃とはまったく違う表情のウミ。