その手で溶かして

「よっ。帰りか?」



話し掛けないでという雰囲気を体全体で表現していたはずなのに、ウミはいとも簡単に私の隣に並び、声をかけてくる。



「こんな時間にいるのは珍しいな。」



私が何時に帰宅しようとウミには関係ない。



「不貞腐れた顔してないで、会話をしてくれよ。勉強ばかりしすぎて口が効けなくなったのか?」



ウミの言葉に苛立った私は乱暴に言葉を返した。



「今日は家で勉強。」



「そっか。毎日勉強ばかりで飽きないか?」



「別に。」



「そうだよな。好きなことなら飽きないよな。どんなに辛くても、毎日が単調でも、好きなことなら苦にならない。」



突然、声質が変わったウミに驚き、私は思わずウミの顔を見てしまう。



そこには私の知らないウミがいた。



あの頃とはまったく違う表情のウミ。

< 35 / 442 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop