その手で溶かして



それなのに、ウミの前だと素直に「ありがとう」が言えない。



たった5文字が私の口からは出てこなかったんだ。



「痛いとこないか?」



助けてもらったのに嫌味なんか言っている、可愛げのない私を心配してくれるウミ。



申し訳ない気持ちでいっぱいだけどやっぱり5文字が私の口からでることはなかった。



「大丈夫だけど、こんな時間になんなのよ?」



申し訳ない気持ちさえ、怒りに変えてしまう私の脳はやはり少し可笑しいのだろうか……



これは脳ではなく心の問題か。



「なんか、急にユキに話を聞いてもらいたくなって。」



ウミは喋りながら庭にあるブランコに腰を掛けた。



あの頃……


私はいつも窓から抜け出し、このブランコでウミと話をしていた。



いくら話しても尽きることのない話題を、何時間もずっと……。

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