その手で溶かして

「試合中に怪我したんだ。」



ウミの前に立ったままの私に向かって、ウミは独り言のように話を始めた。



「最後の夏だっていうのによ……鎖骨なんか折っちまって……試合には間に合わないかもしれない。」



情けなく目尻を垂らし、愚痴をこぼすウミ。



だから、毎朝私と同じ時間に登校していたんだ。



鎖骨を折ったせいで練習ができないから。



「俺の夢は儚く散ってしまいました。まぁ〜怪我しなくても夢には、ほど遠いのはわかってたけどよ。」



ウミはいつだって弱虫だ。


泣き虫で、何かあるとすぐにその場から逃げ出して行く。



でも、人一倍努力家だってこと、私は知っている。



毎朝、早くに大きなラガーバッグをぶら下げながら、朝練に向かうウミの姿を2年間も見てきたんだから。



特別体が大きいわけでも、背が高いわけでもないウミがレギュラーを取れているのは努力の賜物。
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