その手で溶かして
翌朝、窓の外を眺めていると大きなラガーバッグをぶら下げながら走る、ウミの姿を捕えた。
その姿を見るなり、ホッとしてしまう私は本当にあの頃を忘れたいのだろうか?
忘れたい気持ちに偽りはない。
ただ、出来事を消し去りたいだけで、ウミのことまでも消してしまいたいとは願っていない。
だからきっと泣き虫の象徴を、この瞳に焼き付けたりなんかしたんだ。
すべてを消し去る前にもう一度確かめておきたくて……
今日もいつもと変わらぬ朝を迎えて、いつもと変わらぬ日々を送る。
私の環境に変化はない。
変化があってはいけないんだ。
「おはよう。そろそろアイスミルクティーにする?」
ホテルの朝食なみの料理がテーブルに並べられる光景だって、いつものこと。
「おはよう。そうだね。暑くなってきたし、アイスにしようかな。」
「貴方は本当にミルクティーが好きね。」
「うん。」