つむじ風。
大幹部の林さんを前にしても、
俺は自分でも不思議なくらい落ち着いていた。
「そうか、失敗したか。亮二、おまえがなあ」
「申し訳ありません」
林さんは俺の顔をまじまじと見る。
この目はどんな嘘も、ごまかしも
見過ごすことはない。
ずっと傍で仕えてきた俺が言うのだから
間違いない。
だが、それを逆手にとって、
俺はこの場を乗り切る。
「その女にえらく手こずってた、というじゃねぇか。
その上、逃げられたって言うのかよ」
「申し訳ありません」
「その女を抱かなかったのは、昔の知り合いを騙すのに、気がひけたからか。
まさか、惚れちまったってことはないだろうな」
そのまさか、ですよ、林さん。
堕ちたのは、この俺のほうです。
「決してありません」
俺は獣のように怪しく光る兄貴分の目を見つめ返した。
それに頷くと、林さんはニタリと笑う。
その笑いが一体何を意味するのか、
俺には到底わからなかった。