つむじ風。
「もう空が秋だね」
って、おまえは立ち上がり伸びをした。
うろこ雲が赤く染まっている。
「はぐれ雲…」
「あ?」
「よく知ってたね、そんな雲の名前。
私はあの時に初めて聞いたのよ」
「ああ、誰かさん、羊雲って言ったやつだな」
「まだ覚えてるの?」
忘れるはずがないだろ。
初めて話した時のことだからな。
「とりあえず言いましたって感じで、笑っちまった」
「だって、急にあんなこと聞くんだもの」と、ごまかすように笑う。
「親父が空の写真集を持ってて、よく一人で見てた」
「…そう、それでいろんな雲の名前を知って…」
そう言い終わらないうちに、突然強い風が吹き抜けて、俺たちは顔をしかめた。
おまえは小さな悲鳴をあげて、
スカートを押さえる。
ああ、ずっと昔…
これと同じようなことがあって、相当怒られたな。
おまえと一緒にいると、いろんなことを思い出してしまう。
忘れようとした努力が、全くの無駄になっちまうじゃねぇかよ。