つむじ風。

「悪かったよ。
いい加減、機嫌直せよ」

俺は先に歩くおまえの背中に向かって、謝った。

ぴたりとその足が止まる。

俺もおまえとの距離を保ったまま、足を止めた。

「…嫌だったの、あんなふうに言われたのが。なんだか茶化されてるみたいで…」

俺があの瞬間に声をあげたことを言っているに違いなかった。

「別に茶化したわけじゃねぇよ。
でもそれでおまえを不愉快にさせたのなら、謝る」

「…私の方こそ、ごめんなさい。
つまんないことでいつまでも…
たったあれだけのことで…って思うでしょ?」

「思わねぇよ」

「いいのよ、無理しなくて。
私みんなにガードが固すぎるって言われるの。
明治時代の女の人みたいって」

そう言って、肩を揺らした。

後ろ姿で、表情まではわからなかったが、
笑っているのは確かだった。

「またえらく古臭い女に喩えられたな」

「でしょ?新明くんもそう思う?
私って時代遅れ?」

「…思わねぇよ」

「…いいのよ、無理しなくても。
でもね、ああいうのは嫌なの。
私だって恥ずかしいんだから、見て見ぬふりをしてほしかった」

「…悪かった」
< 116 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop