つむじ風。

「慰謝料」

「は?」

「喉が渇いたの、私」

そう言って、おもむろに自販機を指差した。

こいつ、足元を見やがって…

と内心思いながら、
俺はしぶしぶ自販機に金を入れた。

すかさず横から手が伸びてきて、ボタンを押す。

「ったくよぉ、おまえ…」

「ありがとう、いただきます」

その笑顔が、あまりにも嬉しそうで、
俺は文句の続きを飲み込んでしまった。

続けて、また自販機に金を入れる。

「これでしょ」

また横から手が伸びてきてボタンを押す。

「おいっ!おまえ、勝手に…」

「ミルクコーヒーでしょ?」
と笑いながら。


俺たちは河原のベンチでそれを飲んだ。

多少ぬるくなっていたが、
とりあえずおまえの機嫌が良くなったことにホッとしていた。

その時初めておまえを「女」だと強く意識したんだ。

決して自分から女らしさをアピールすることはなかったが、この出来事でいかにおまえが「女」なのかを、思い知らされた。
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