つむじ風。
…なんだって??
思わず俺はポケットに突っ込んでいた手を出し、頭を下げていた。
なぜだろう…
きっと心のどこかで、この人に対して
うしろめたさを感じていたからかもしれない。
「あなたと話がしたいと思って」
低くて穏やかな声だった。
「先ほどの聴取、隣の部屋から拝見しました。演技がお上手なんですね」
その言葉に、内心ひやりとしつつも、
「何のことですか?」と訊き返す。
「僕の知ってる新明亮二は、あそこまで多弁じゃない」
何を言ってるんだ、一体…
「覚えてませんか?」
そう言って詰め寄ってくる。
目を先にそらせたのは、俺の方だった。
「無理もありません。
その頃は両親もまだ離婚していなくて、僕は父方の姓の藤本を名乗っていましたから」
「藤本?」
加瀬さんは俺にベンチに座るように促した。
あれほど狂おしいほど嫉妬した男が目の前にいるのに、俺はなぜか冷静だった。
「実は僕とあなたは高校剣道の新人戦で対戦してるんですよ。決勝戦です。延長戦のまでもつれこんで、完璧な面1本。僕の完敗です」
ああ、そう言えば…
「思い出しましたか?」
そうか、あの時の相手、
あんただったのか…